11/11(木)@LIQUID ROOM THE NOVEMBERS Misstopia 11th Anniversary “ Ceremony ” DAY2 ライヴレポート2021/11/28

11月はTHE NOVEMBERSの月。毎年11月11日には都内で記念碑的なライヴが行われてきた。

たとえばバンド結成11周年に6thアルバム『Hallelujah』の祝砲を上げた5年前の新木場スタジオコースト公演。さらに小林祐介がギターを置きハンドマイクで踊り始めた2019年のO-EAST公演。記憶を辿れば素晴らしい熱演が蘇るが、今回は2010年に発表した2ndアルバム『Misstopia』リリース11周年と銘打って、10日、11日とリキッドルームでの2デイズワンマン公演が行われた。当然、選曲は『Misstopia』のものが中心となる。

当時はまだインディでデビューして3年ほど。自主レーベルのMERZもなく、将来自主制作でやっていく気概があったかどうかもわからない。メンバーの課外活動が盛んになり、小林がブンブンサテライツの中野と新バンドを結成することなど、きっと誰にも想像できなかった。音楽性はギターロックの範疇に収まっており、俯きがちに危ういアンサンブルを鳴らすだけ。ここでいう危うさとは、影響されたニューウェイヴの仄暗さや繊細さ、オルタナティヴのイビツさ、シューゲイザーの不穏さなど、完璧ではないから人間を惹きつける瑕疵のこと。ハラハラするから魅力があるのももちろんわかる。ただ一一。

11年前の幕開けと同様、「Misstopia」から始まるライヴは、控えめに言って完璧であった。鉄壁のリズム隊、エフェクトを使い分けてエレガントな空間を作り出すギター。バンドサウンドの安定に加え、当時と一番違うのは小林のボーカルだ。単純に、抜群に、上手くなった。ピッチが安定し、感情に左右されることがなくなり、さらには歌詞によって声色を使い分け、ちょっとした遊びさえ取り込んでみせる。つまり全曲で歌がものすごく強い。技巧、存在ともに圧倒的。ロックスターという言葉が自然と浮かんできた。

技巧で圧倒するというのは、バンドによっては必ずしも正解ではないだろう。キュアーに完璧な歌唱力を求める人がいないように、不安定な揺らぎが魅力のボーカリストは確実に存在する。ただ、THE NOVEMBERSは、キュアーに影響を受けてきたが、キュアーに影響を受けたL’Arc〜en〜Cielにも強い影響を受けている。そういうルーツがようやく明確な答えを連れてきた。圧倒的歌唱やカリスマ性は、THE NOVEMBERSが完全になるために必要な要素だったのだろう。80’sニューウェイヴの耽美的空気は今聴いてもロマンチックだが、2021年に小林祐介が見せてくれる情熱的な歌いっぷりは、とても誠実で、素直で、何よりオリジナルなのだった。

さらには、仄暗く不穏なサウンドを愛しながら、小林が決して不幸な歌を好んでこなかったことも今だから特筆したいこと。3曲目「Pilica」の歌詞が〈花で世界を埋め尽くしてみたい〉であるように、続く「パラダイス」の歌詞が〈悲しんだ子供達は/いつでもここでパラソルをふる〉であるように、少しでも美しい明日を、よりよい未来を望んできたのだ。最初は憧れや理想だったかもしれない。ただ、それを実践する自覚が生まれて、言葉に魂が宿るように、バンドはこのあと一気に飛躍していく。そういう覚醒前夜だったのだと、完璧な演奏で再現される『Misstopia』の世界を私は堪能した。もちろん、当時のことを思い出しながら泣きそうな表情で感情を爆発させる昔からのファンも多数いた。ただ、そういう人たちであっても、当時の彼らより今の彼らが11倍くらい飛躍した事実には同意してもらえると思う。

近年はねっとりとスローに展開することが多かった「Gilmore guilt more」が原曲の高速バージョンで披露されたこと。ごく初期のダークサイケ「dnim」からシーケンスが走る最新曲「New York」、再び『Misstopia』から「dysphoria」と、当時と現在を繋げてみせた3連発の見事さ(セットリストの大きく違う前日も、この最高の流れだけは同一だった)。そしてハイライトはワンコードで狂い咲くスーサイドのカバーと、「xeno」の凄まじい轟音。歌もの要素の強い『Misstopia』がメインであっても、ライヴ後半は今の揺るぎない精神力で一点突破。とてつもなく激しいが破壊的ではない。目の前の何かを体当たりでぶち壊すのではなく、しなやかに飛び越える気品さえ感じさせる轟音だ。クラクラする残響音の中、フロアからは万雷の拍手が巻き起こっていた。

アンコールは11年の月日を飛び越えて現在へ。最新作から「Rainbow」が虹色のライトと共に放たれる。シーケンスを飲み込んだバンドサウンドはもはや何々系ロックと分類することが不可能で、SF的なイメージを散りばめながら未来に向かっていく。その先にとても美しいものが待っているという絶対の予感。今バンドのコンディションは完璧だが、近年のアルバムを思えば、さらなる進化は当然あるだろう。終了と同時に2022年のツアー「歓喜天」、そのファイナルに7月11日のZepp Haneda公演が控えていることも発表されたが、そこでまた真新しいTHE NOVEMBERSに出会えることを楽しみにしている。

TEXT:石井恵梨子
PHOTO:鳥居洋介