パラレルワールド2014/10/10
「Rhapsody in beauty」11時間限定フル視聴と、
そのラストトラック「僕らは何だったんだろう」のプレゼントを経て、いよいよ発売が近づいてきたことを実感しています。
あぁ、世界をゆらしたい。
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取材などでも話していることを改めて。(ちなみに今回、どのインタビュー記事も素晴らしいです。感謝。是非読んでほしいです。)
「Rhapsody in beauty」は“美しさ”と“ノイズ”にまつわる作品ですが、実はもう一つ大事なテーマ、モチーフがあります。
“パラレルワールド”です。
(パラレルワールドとは、ある時点を境に分岐した“ここ”とは別の並行世界を意味する言葉です。現在とは別の未来、別の可能性とも言えます。)
もし僕の父親がギターを持っていなかったら…
兄妹がいなかったら…
生まれた場所が隣町だったら…
THE NOVEMBERSのメンバーに会わなかったら…
子供の頃キウイやシシャモを無理矢理食べさせられなければ…
僕の人生は大きく変わっていたはずです。
直接的か間接的を問わず、どんな些細なことでも人の人生は変わります(きっとキウイやシシャモでさえ)。過去のあらゆる可能性の行き着いた果て、僕やあなたにとっての“ここ”はその一つです。
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話はモドリ
「Rhapsody in beauty」は僕にとって、ある時を境に分岐したTHE NOVEMBERSにとっての“パラレルワールド”を“現在”として仮説的に表現した作品です。「tu m’(Parallel Ver,)」という楽曲の(Paralel.ver)とはそういう意味です。別の可能性に導かれた別の未来。
つまりこのアルバム自体がTHE NOVEMBERSの(Parallel Ver,)とも言えます。ちなみに「僕らは何だったんだろう」は“パラレルワールド”と深く関わりのある楽曲です。その意味は後でわかるかもしれません。
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「Misstopia」というアルバムに収録されている「tu m’」を最後に、僕は美しさ“だけ”を理由に表現をすることから離れました(自覚的な部分とそうでない部分がありますが)。身近な人達の死、震災、さまざまなショックな出来事がきっかけでした。
作品で言うと2011年の「To ( melt into )」から、僕の未来は分岐したように思います。
自分自身という存在も含めた辻褄の合わない物事や矛盾、何が自分にとってのリアルなのかをいつも考えるようになりました。
何に価値を見いだし、どんな意味を選び取っていくのか。またその問いかけについて表現したアルバム「zeitgeist」を経て、僕が辿り着いた答えは“心身の豊かさ”でした。
そして、その集大成として「今日も生きたね」を作りました。無常観と共に、他人や未来への希望を表現できたことが、僕は本当に嬉しかったし、一生誇れる出来事だと思っています。
自分が音楽で社会と関わるにあたって、そこに健康的な意味や価値がある。なんて素晴らしいことなんだろう。
しかし、僕はいつのまにか心のどこかで息苦しさを感じていたのかもしれません。
それを僕に知らせてくれたのは“ロック”と、まだお腹の中にいた娘の楓でした。
浅井健一氏とROMEO’s bloodを組んだこと
BORISと共演したこと
近くにいても会ったことのない、予め愛すことだけが何故かわかる命が存在するということ
僕は衝撃を受けました。
理由を説明できないような、辻褄の合わない、整合性のとれていない、歪で、暴力的で、とびきりロマンチックで、どこまでも美しい衝動がそこにはありました。自分がこれまでと違う未来、違う可能性、別の並行世界へ導かれるような何か。
音としてではなく、在り方としての“ノイズ”の美しさに触れ、自分が選びとってきたものと、いつからか置き去りにしてきたもののことを考えました。
例えそれらが、冷静に見たら不健康的なものだったとしても
美しさを感じる自分を止めることは出来ない。
「そうだ、もともと僕は意味とか価値とか正義とか悪なんて、どうでもよかった。ただ美しいものが大好きなだけだった。目眩がするほど。子供の頃からそうだった。」
意味がないとされているものから価値を見いだし、価値がないとされているものに意味を見いだす。
ノイズと呼ばれる物事から美しさを見いだし、美しいと感じる物事が孕んでいるノイズを肯定する。
あらゆることを知り、気付いた僕は、もう子供のように無邪気ではいられないけれど
“美のための美”に殉ずるような澄み切った気持ちで「Rhapsody in beauty」を作りました。
今作は僕がTHE NOVEMBERSの本質と再会するモニュメントのようなものになったと感じています。
新鮮だけど懐かしいと感じる、待ち合わせ場所のような。初めて会ったのに昔から知っていると感じる赤ん坊のような。
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tobirdのジャケットも、上條さんのアーティストイラストも“美しさ”と同時に“パラレルワールド”を表現しています。
それを、自分なりの触れ方、考え方で紐解いていくのもいいですね。
僕自身気付かされ、驚かされます。なんて素晴らしい表現者なんだろう。
これまでにやった“音楽の届け方、伝え方”の全てにおいても「Rhapsody in beauty」は“パラレルワールド”というテーマが根底にあります。例えば
Spotifyは日本と、海外という対比、
「音楽と人」で実施したレターアドは、広告という“公のもの”と、手紙という“私的なもの”の対比
THE NOVEMBERSを取り巻くそういった対比によって、“並行世界”を表現しました。
そこにあるのはある種の分岐点だと僕たちは考えます。別の未来、別の可能性への扉。
もちろん、まだまだ見せていないこともあります。
この作品が、チームMERZに与えた“パラレルワールド”というインスピレーションによって
“音楽の届け方、伝え方”を
これからも展開していきます。
発売まであと5日。それまでも、それからも、お互いに日々を楽しみましょう。
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未来にはただ可能性だけがある。
ほんの些細な何かが、僕やあなたの人生を明るく照らすかもしれない。
「Rhapsody in beauty」がその一つだったら、どんなに素敵だろう。
よい日々を!
小林祐介